絶縁OKでも正常とは限らない。三相モーターの電流不平衡とレアショート

設備トラブルの現場では、ひとつの測定結果だけで「正常」と判断してしまうと、原因を見誤ることがあります。

今回の事例は、インバータで駆動している三相ギアモーターのトラブルです。

通常は20Hz付近で運転していたモーターが、4Hz程度でしか回らなくなりました。

原因調査の中で各相電流を測定すると、次のような結果でした。

R相:9A
S相:3A
T相:3A

明らかに電流が不均衡です。

一方で、絶縁抵抗は問題なし。

ここが今回の重要なポイントです。

絶縁が良いからといって、モーターが完全に正常とは限りません。


今回の現象

対象は、インバータ駆動の三相ギアモーターです。

通常は20Hz付近で運転していましたが、異常発生時には4Hz程度でしか回らない状態になっていました。

症状としては、

・回ってはいる
・しかし回転が伸びない
・トルクが出ていないように見える
・インバータ側は運転している
・機械側は通常の動きにならない

という状態です。

このようなとき、まずインバータ側を疑いたくなります。

もちろん、インバータの周波数指令や実出力周波数、アラーム履歴を見ることは大切です。

しかし、それだけで判断せず、三相モーターとして正常に働いているかを見る必要があります。

そこで重要になるのが、各相の電流です。


各相電流の結果

今回、各相の電流を測定すると以下の結果でした。

R相:9A
S相:3A
T相:3A

三相モーターであれば、本来は各相の電流値がある程度そろうはずです。

多少の差はあっても、今回のようにR相だけが他の相の約3倍流れている状態は、通常のバランスとは言えません。

この時点で、

・モーター巻線
・インバータ出力側
・ケーブル
・端子接続部
・相間バランス

のどこかに異常がある可能性を考えます。


絶縁抵抗は問題なしだった

次に、絶縁抵抗も確認しました。

結果は問題なし。

ここで注意したいのは、

「絶縁OKだから、モーターは正常」

とは言い切れないことです。

絶縁抵抗測定で主に見ているのは、巻線とアース間の漏れです。

つまり、地絡していないか、絶縁が大きく低下していないかを見る検査です。

一方で、各相電流の測定で見ているのは、三相としてバランスよく仕事をしているかどうかです。

見ているものが違います。

絶縁抵抗が良い場合、

「地絡の可能性は低い」

とは言えます。

しかし、

「巻線内部が完全に正常」

とまでは言えません。

ここを混同すると、原因調査が止まってしまいます。


レアショートという考え方

今回のような症状で疑うもののひとつに、レアショートがあります。

レアショートとは、モーター巻線の一部で発生する短絡のことです。

完全な地絡ではなく、巻線の一部同士が短絡しているような状態です。

たとえば、

・巻線の一部短絡
・層間短絡
・ターン間短絡
・巻線同士の部分的なショート

のようなイメージです。

このような状態では、絶縁抵抗測定だけでは問題が見えにくい場合があります。

なぜなら、アースに漏れているわけではなく、巻線内部で異常が起きている可能性があるからです。

つまり、

絶縁OK = 地絡していない可能性が高い

ではありますが、

絶縁OK = モーター巻線が完全に正常

ではありません。


電流不平衡で起きること

三相モーターは、R相・S相・T相の電流によって回転磁界を作ります。

この3相のバランスが崩れると、回転磁界も乱れます。

その結果、

・トルクが出ない
・回転が伸びない
・モーターが唸る
・発熱する
・インバータが電流制限に入る
・低速でしか回らない

といった症状につながることがあります。

今回のように、

R相:9A
S相:3A
T相:3A

という状態は、三相としてのバランスが崩れている可能性を示しています。


デルタ結線で考えるときの注意点

今回の説明では、デルタ結線の模式図を使って考えました。

ただし、ここで注意が必要です。

実測値は、

R相:9A
S相:3A
T相:3A

でした。

しかし、デルタ結線内部のどの位置で短絡が起きたかによって、線電流の現れ方は変わります。

また、

・故障の状態
・巻線のどこで短絡しているか
・測定位置
・インバータの制御状態
・負荷状態

によって、各相電流の出方は変わります。

そのため、説明図では、

「この位置でレアショートしたから必ずR相だけ9Aになる」

とは表現しない方が安全です。

正しくは、

「実測としてR相9A、S相3A、T相3Aという不均衡が出ていた」
「その原因候補として、巻線内部の一部短絡、レアショートを疑う」

という見方です。


現場での確認ポイント

このようなトラブルでは、次のような確認が重要です。

・各相電流を測る
・相ごとの電流差を見る
・インバータ出力端子の緩みを確認する
・モーター端子箱内の緩みや焼けを確認する
・ケーブルの損傷や接触不良を見る
・端子台の変色、発熱跡を見る
・巻線抵抗のバランスを見る
・絶縁抵抗だけで判断しない
・可能であればモーター単体で確認する
・負荷側を切り離して挙動を見る

特に、インバータ駆動の場合は、測定器の種類にも注意が必要です。

インバータ出力波形は商用電源の正弦波とは異なるため、測定器によっては正確に読めない場合があります。

ただし、今回のように9Aと3Aのような大きな差が出ている場合は、単なる測定誤差だけでは片付けにくいです。


やってはいけない判断

今回のようなケースで避けたい判断があります。

それは、

「メガーで絶縁が良かったから、モーターは問題なし」

と決めつけることです。

もちろん、絶縁抵抗測定は重要です。

しかし、絶縁抵抗だけでは見えない異常もあります。

特に、巻線内部の一部短絡や相間バランス不良は、各相電流や巻線抵抗、運転時の挙動を合わせて見ないと判断しにくいことがあります。


伝えたいこと

この事例で伝えたいのは、測定にはそれぞれ役割があるということです。

絶縁抵抗測定は、地絡や絶縁低下を見るための確認です。

各相電流測定は、三相として正常に仕事をしているかを見るための確認です。

どちらも大事ですが、見ているものは違います。

だから、

・絶縁OK
・でも電流不均衡

という結果が出たときに、

「では、何がまだ残っているのか」

を考えることが大切です。

現場では、ひとつの測定結果だけで答えを出すのではなく、複数の情報をつなげて判断します。


まとめ

今回の事例から得られる教訓は、以下です。

・絶縁OKでもモーター正常とは限らない
・絶縁抵抗は主に地絡やアース間の漏れを見る
・各相電流は三相として正常に働いているかを見る
・R相9A、S相3A、T相3Aは明らかな電流不均衡
・電流不均衡がある場合は、巻線異常、端子、配線、インバータ出力側も確認する
・レアショートのような巻線内部異常は、絶縁抵抗だけでは見えにくい場合がある
・説明図は模式図として扱い、実測値と理論上の位置関係を混同しない

一言でまとめると、

絶縁OKは「地絡していない可能性が高い」という情報であって、
「モーターが完全に正常」という証明ではありません。

現場では、絶縁抵抗、各相電流、音、発熱、回転状態、インバータ表示を組み合わせて判断することが大切です。

お手入れ次第で、良いもの長持ち。

設備も同じで、異常のサインを早い段階で見つけ、正しく切り分けることで、大きな故障を防ぐことにつながります。

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